「夫(妻)と話が通じない」「こちらの気持ちが伝わらない」「なぜか毎回すれ違う」――。
そんな日々が続くと、相手を責めたくなる一方で、「自分の方が悪いのかもしれない」と自分を責めてしまう方も少なくありません。
この手の“会話のズレ”には、性格や相性だけでは説明しきれない、アスペルガー症候群(ASD)に代表される発達障害の特性が関係していることがあります。
具体的には、情報の受け取り方(言葉を文字どおりに受け取りやすい等)、見通しの立て方、感情の扱い方といった「認知の特性」が影響しているケースです。
ただし、ここでお伝えしたいのは「診断の断定」ではありません。
大切なのは、レッテルを貼ることよりも、「いま困っている現実がある」という事実に向き合うことです。
「話が通じない」「一緒にいるのに孤独」——その苦しさは、 あなたの感受性が強すぎるせいでも、我慢が足りないせいでもありません。 発達特性によるコミュニケーションのズレが積み重なると、 相手に悪気がなくても、こちらの心と体は確実に消耗します。 大切なのは、相手を変えることより、 あなた自身が消耗し続けない関係の作り方を知ることです。
- 会話がかみ合わない/気持ちが通じない関係が続くとき、何が起きやすいのか(“現象”として整理)
- 「悪気がないように見えるのに傷つく」すれ違いが積み重なる背景
- 孤独感や不調が強まる理由(※診断名ではなく“状態”として扱います)
- 我慢や自己犠牲が増える“共依存の回路”と、抜け出すための視点
- 相手を変える前に、あなたが消耗しないための伝え方・境界線の作り方
- 診断の有無に振り回されず、現実の困りごとを整理する考え方
本記事では、会話がかみ合わない関係で起きやすいカサンドラ症候群(“孤独感や心身の不調”)の仕組みと、そこに自己犠牲(共依存)が絡むと苦しさが増す理由、そして自分を守りながら関係を続けていくための具体的な対処法を、カウンセリング現場でよく伺う例を交えて解説します。
「なぜ?」が少し整理され、「自分ばかり我慢してきた」という感覚が軽くなる一助となれば幸いです。
【重要】本記事は、医学的な診断や治療を目的としたものではありません。あくまで夫婦関係の改善を目的とした情報提供です。医療的な判断が必要な場合は、必ず専門の医療機関にご相談ください。
もしかして私も?カサンドラ症候群セルフチェック
以下の項目に、あなたはいくつ当てはまりますか?
医学的な診断ではありませんが、ご自身の心の状態を客観的に見るための目安としてお使いください。
- パートナーと一緒にいるのに、強い孤独を感じる
- パートナーとの会話が噛み合わず、精神的にひどく疲れる
- 「自分の言っていることがおかしいのかも」と自分を責めてしまう
- 理由のわからない頭痛、めまい、不眠、食欲不振などの身体症状がある
- パートナーの言動の意図が分からず、常に顔色をうかがってしまう
- 自分の気持ちや意見を言うのを諦めてしまった
- 周囲にこの辛さを相談しても「よくあること」と理解されない
- パートナーに愛情を感じられなくなり、無気力になっている
- 感情的な繋がりがないことに、虚しさや絶望を感じる
- 一人でいる時の方が、心が穏やかだと感じる
もし当てはまる項目が多いと感じるなら、あなたはカサンドラ症候群の状態に陥っている可能性があります。
しかし、自分を責める必要はありません。
この記事では、その苦しみの原因と、あなた自身を守るための具体的な方法を解説していきます。
「私ばかりが消耗している」と感じるとき:何が起きているのか

「まさかあの人がモラハラだなんて…」と思っていた言動が、実は“意図的な支配”というより、情報処理や受け止め方のクセ(発達特性を含むこともあります)によって起きているように見えるケースがあります。
ただし、原因が何であっても「傷ついた」「怖かった」「消耗した」という事実は消えません。
ここでのポイントは、相手を免罪することではなく、あなたが状況を整理し、必要な境界線を引けるようにすることです。
※暴言・暴力・脅し等がある場合は、理由の推測よりも安全確保を優先してください。
仮に“意図的な支配”ではなかったとしても、
- 健全なコミュニケーション(双方向的なコミュニケーション)がとれない
- 共感を得られない
- 愛情を感じられない
- 突発的な行動、言動に振り回されてしまう
といった苦しみからすぐに解放されるわけではありません。
しかし、「故意の発言や行動ではないのかもしれない」「単に性格が原因の発言や行動ではないのかもしれない」と理解できるだけでも、少しは心の余裕が生まれるのではないでしょうか。
暴力(DV)や暴言が多い場合も、性格が原因によるものとは異なる可能性があるため、対応が変わってくるかもしれません。
決して元々の性格として、攻撃的・わがまま・冷淡さがあったわけではなく、発達特性(コミュニケーションの特性)が原因となっている場合があるのです。
故意でないとしても、結果的に同じモラハラ行為ですのでつらいことには変わりませんが、相手の気持ちを理解した上で行われる意図的なモラハラとは違う側面があることを知っておいてください。
※以前はアスペルガー症候群という名称が広く知られていましたが、現在の国際的な精神疾患の診断基準であるDSM-5(『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版)やICD-11(『国際疾病分類』第11版)では、ASD(自閉症スペクトラム症)という名称に統合されています。本記事では、診断の断定ではなく、夫婦間の“すれ違いの現象”に焦点を当てます。
<関連ページ>モラハラには2種類あります。
一緒にいるのに孤独になる:カサンドラ症候群と呼ばれる状態
会話がかみ合わない関係が続くと、
- 抑うつ
- 自律神経失調症
- 自己評価の低下
- 偏頭痛
- パニック障害
- 動悸
- 不眠
といった心身の不調が出ることがあります。
世間ではこうした状態を、便宜的に「カサンドラ症候群」と呼ぶこともありますが、医学的な正式診断名ではありません。
※カサンドラ症候群は、自閉スペクトラム症(ASD)などの特性を持つパートナーとの関係性の中で生じやすい、心身の様々な不調や困難の総称として用いられる言葉です。現在の医学や精神医学において、公式な診断名(病気として分類されるもの)としては確立されていません。 しかし、そこで経験される不安、抑うつ、身体症状などの苦痛は非常に現実的であり、その影響は深刻なものとなり得ます。
発達特性(コミュニケーションの特性)の一つである、相手の視点に立つことの困難さによって、心無い発言や行動に傷つけられた結果、上記のような症状が現れることがあります。
決して心無い発言や行動を故意にしているわけではないところが、される側にとっては、誰に、どこに、この気持ちを打ち明けたら良いのかわからず、もどかしい思いを抱えやすいのです。
一人でいる時よりも、一緒にいる時の方が孤独を感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような孤独感から、お子様がいらっしゃる方ですと、はけ口をお子様に求めてしまい、毒親(毒母)化し、お子様をアダルトチルドレン化させてしまうこともあります。

熟年離婚に発展することも
大村カウンセラー
カサンドラ症候群は男女関係なく起こり得ますが、最近では、定年を迎えた夫が家にいる時間が増え、会話が増えることによって、これまで気にならなかったコミュニケーションのズレが顕在化し、このような症状を訴える(60代70代の)妻からの相談が増えてきました。
「今まではイライラさせられることはあったけど、男の人はこんなものだろう、とあまり気にしていなかった。でももう限界」という声も聞かれます。
このような理由から、熟年離婚に発展するケースも少なくありません。
発達特性や、それと共に起こり得るカサンドラ症候群というものを知っていただくだけで、「今までの不可解なことはこういうことだったんだ。もっと早く知りたかった」と安堵される方もいらっしゃいます。
発達特性としては、一般的に以下のような点が挙げられます。
- 相手の視点に立って考えることが苦手(社会的相互性の困難さ)
- 自分と他人の区別がつきにくい
- 場の空気を読むのが苦手
- 会話の行間を読むのが苦手
- 言われたことを文字通り受け取ってしまう
- 思い込みが激しい
- 冗談や皮肉がわかりにくい
- 自分のルールで動く
- 過集中
- 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ
などが挙げられます。
また、
こだわりが非常に強い
興味の対象が極端に偏っている
という特徴もあり、良い形で現れればとてつもない才能となります。
今の日本がこれだけ成長できたのも、彼らのおかげだという声もあるくらいです。
※よくある事例や具体的な特徴はこちらで詳しく解説しています↓
また、ASDの中でも特に「問題が見えにくい」タイプとして知られる受動型(パッシブ型)については、専門の解説記事があります。
「穏やかで優しいのに、なぜかこちらだけが消耗する」という感覚を持つ方は、ぜひあわせてご覧ください。
<参考ページ>
・「わかってくれない」と嘆く人が抱える誤解と背景:被害者意識が生む落とし穴
・自分の立ち位置を正しく知ること:相手を客観的に見る方法
→念のためこのような視点ももっておいてください
「悪気はないのに傷つく」すれ違いが起きる場面(よくある例)
日常生活で起こる例
カウンセリングの現場でよく聞かれる例を2つ紹介します。

体調が悪い時
特に妻が風邪で寝込んでしまったケースに多いですが、発達特性(コミュニケーションの特性)のある夫が「まだごはんできないのか」と言い、妻が「体調が悪いから買ってきて」と言うと、自分の分しか買ってこないということが多くあります。
妻のニーズや感情が読み取れず、「大丈夫?」という心配の言葉も出てきません。
性格が悪いのではなく、単にわからないだけなので、以下に書いたように、悪意でやっているんだと捉えるだけ無駄ですし損です。
家族がノロウイルスにかかったにもかかわらず、牛丼やとんかつやカップラーメン等、脂っこい胃に悪いものばかり買ってくるというケースもあります。
普通の感覚であれば胃に優しいものを買ってくると思いますが、「胃に優しいものを買ってきてね、例えば〇〇とか□□とか」と具体的に伝えないとわからないのです。
このような場合、家族に文句を言われても仕方ないと思いますが、「せっかく買ってきたのに」等と言い、家族の側が悪いようにされます。

言葉を文字通りでしか受け取れない
妻が「ちょっと忙しいから子どもを見ててね」と言うと、(小さい)子どもが包丁などを手にして危ない状況にもかかわらず、文字通りただ見ているだけ、というケースもあります。
「ちゃんと見ててと言ったでしょ!」と言っても、「だから見てたじゃないか!」という反論を大真面目にしてくることがあります。
発言の裏にあるメッセージを読み取ることが難しいのです。
このようなことが日常では、パートナーが上記のような身体症状が出てきてもおかしくないですね。
「悪気がない」という話
上記の例はいずれも、本人には悪気がないだけに、余計にパートナー(カサンドラ症候群の人)はモヤモヤした気持ちをぶつける術・場所がなく、辛いですよね。
この「悪気がない」は発達特性のある人と生活していく上でキーポイントとなりますので覚えておいた方が良いです。
悪気がないのですから、彼らの言動や行動にネガティブな意味をつけてしまうのはもったいないです。
ネガティブな意味、というのは、例えば、「自分を傷つけるためにやったのではないか」「自分をバカにしているのではないか」等です。
同じ言動や行動でも、定型の人ならおそらく意図した(悪気がある)言動や行動であろうことでも、彼らの場合は意図していない(悪気のない)言動や行動であることが多く、定型の人(自分)の感覚を基準にして特性のある人の言動・行動を捉えることはやめた方が良いです。
なぜなら、特に意味がないことが多いからです。
一点、誤解されやすいことを明確にしておきます。
ちなみに私は、この「悪気がない」について、「悪気がないのだから許してあげてね」と言っているわけではありません。
そんなことは一言も言っていません。
たまに誤解される方がいるので一応書いておきます。
ですから、「悪気はなかったから(許してくれ)」が言うことがありますが、当然許さなくて良いです。
悪気がなかったとしても、相手は傷ついたのですから、そのことについては謝罪するのが普通です。
これを理解できない特性のある人が非常に多いです。
さらに、一回目はまだ仕方ないこともあるでしょう。
その自分の言動行動が相手を傷つけるとわからなかった場合があるからです。
ただし、二回目以降も「悪気はなかったから(許してくれ)」と言う人がいますが、当然許す必要はありません。
一回目でそれ(自分の言動行動)によって相手が傷つくことがわかったのですから、二回目以降「悪気がない」が通用するわけがないのですが、それでも通用すると思っている人が一定数います。
「悪気がない」を二回目以降も乱発する人というのは、「相手の傷に無関心です」「(一回目のことを忘れるくらいそのエピソードを)重要と思っていません」と自分で言っているようなものなのですが、特性のある人はこういったこともわからないことが多いです。
「悪気がない」と言われるほど、傷ついた側は気持ちの置き場を失いやすいものです。
大切なのは、悪気の有無で我慢を正当化しないことです。
起きた影響(つらさ・負担)を小さく扱わず、次に同じことが起きないためのルールや伝え方に落とし込むことです。
共依存やアダルトチルドレンの特徴をもつ方は「悪気がないから仕方ないか、だけどモヤモヤするなぁ」等となんとなくスルーしてしまうというか無理矢理自分を納得させてしまうことが多いですので、注意が必要です。
特性のある人は自分の発言や行動によって周囲がなぜ困っているのかわからない、
自分が変わる必要性を感じない、
ということが周囲の人にとってお辛いところです。
相手を変えようとして疲れ切る前に:共依存の回路から抜けるには
カサンドラ症候群に陥る方の多くは、共依存やアダルトチルドレンの特徴を持っています。
チェックリストを行うと、多くの項目に当てはまることが多いでしょう。
「あなたのために」という自己犠牲、
自分よりも相手優先、
~すべき、~でなければならない、
自由になれない、自由に罪悪感、
真面目過ぎる、
といった思考パターンが、カサンドラ症候群を加速させてしまいます。
「自分が変われば相手が変わる」とよく言われますが、発達特性(コミュニケーションの特性)のある方相手には正直それはあまり当てはまることは少ないです。
皆さんが「それは綺麗事」だとおっしゃる気持ちも大変よくわかります。
ですが、自分が変われば発達特性のあるパートナーに対してイライラしたり気になることは大幅に減ります。
相手はあまり変わることはないけれど、パートナーに対する見方が変わるからです。
なぜ自分だけが変わらないといけないのか、という不満は当然あると思います。
ですが、夫婦関係が改善するかどうかは別として、共依存やアダルトチルドレンの特徴は克服できるわけですから、何も得られないということはありません。
変わらない相手をどうにかしようとしてストレスを溜める時間を、自分を変える時間にシフトしてみても良いのではないでしょうか。
「自分を許せるようになれば、相手を許せるようになる」という綺麗事も当然言うつもりはありません。
自分を許せるようになった結果として、「気づいたら相手のことも許せるようになったな」となれば最高ではありますが、そこまでは自分に求めなくて良いと思います。
当然「相手を許すために自分を許せるようになりましょう」ということも私は言いません。
それこそまだ「あなたのために」が発動していますからね。
自分が変わることだけに焦点を当てましょう。
カサンドラ症候群の方はいろいろなことを一人でできる優秀な方が多いので、毎日の生活を恨みやストレスで過ごしてしまうのはあまりにももったいないと思います。
誰かのために自分が変わるのではなく、自分のために自分を変えましょう。
そのお手伝いができればと思います。
【参考:ASD傾向のパートナーのいる方からのご相談事例】
実際のご相談では、同じようなすれ違いがどのように起き、どう解決してきたか、具体的な経緯をお話ししています↓
今日からできる関わり方:伝え方・話し合い方の工夫(概要)
カサンドラ症候群に陥っている方にとって、「なぜこんなに自分だけが努力しないといけないのか」という徒労感は非常に強いものです。
しかし、相手の特性(発達特性・認知特性)に合わせたコミュニケーションのコツを知ることは、相手を変えるためではなく、あなたがこれ以上消耗しないための有効な防衛策になります。
発達特性のある方との話し合いでは、一般的な夫婦のコミュニケーション(「私の気持ちをわかってほしい」といった感情の共有)は逆効果になることが多く、以下のようなポイントを押さえる必要があります。
- 曖昧な表現を避け、具体的に(5W1Hで)伝える
- 一度に複数の情報を与えず、一つずつ(シングルタスクで)話す
- 感情(Iメッセージ)ではなく、具体的なメリット・デメリットで伝える
- 口頭だけでなく、メモやLINEなど視覚的な情報を活用する
- 相手がパニックを起こす「地雷ワード」を把握し避ける
これらの工夫は、「あなたが我慢して相手に合わせる」ためのものではありません。
「言った・言わない」の不毛な争いや、突然のパニック・怒りに巻き込まれるリスクを減らし、あなた自身の心と時間を守るためのスキルです。
それぞれの具体的な会話の変換例(NG例とOK例)や、話し合いの場をこじらせないための実践的なテクニックについては、下記の専用記事で詳しく解説しています。
今日から使える具体的な方法を知りたい方は、ぜひこちらをお読みください↓

相談相手の選び方
大村カウンセラー
多くのお客様を見て思うことは、カサンドラ症候群に陥っている方はこの辛さに共感してくれる人が一人でもいれば頑張れるようです。
ある程度長い期間頑張れないと、発達特性のある方とせっかく積み上げた良い関係もちょっとした気の緩みや落胆から出る一言で崩壊してしまうことがあります。
共感者は必須だと思います。
ただし、発達特性のある方と生活したことがある方を選んでください。
例えばカウンセラーのような専門家でも、できれば一緒に生活したことのある方が良いです。
ちなみに私は小さい時から父親(受動型ASD)に悩まされてきました。
いずれにしましても、知識や経験のない身近な方に相談すると、一つ一つのエピソードを「小さい話・よくある話」と受け取られ、二次被害を受けてしまうことがありますので注意が必要です。
いろいろと特徴を書きましたが、もちろん安易に発達特性があると決めつけず、ちゃんと医療機関で診てもらってくださいね。
診断の有無より大事なこと:困っている側の現実を置き去りにしない
医療機関に行き、診断されなかった方で「自分はどこもおかしくない!」と開き直る方がいらっしゃいますが、パートナーが困っている以上、解決する術を一緒に探さなくて良いわけではありません。
また、グレーゾーンと言われた方で「はっきり診断されたわけではない!」と開き直る方がいらっしゃいますが、グレーと言われたものを0と考えてしまっていることそれ自体がアスペルガー症候群を疑われてしまう理由になります。
いずれにしても、困っている側のパートナーだけに変化を求めるのは酷なことです。
コミュニケーションは二人の共同作業ですからね。
そもそも、本人が困りごとを自覚しにくいタイプの課題は、受診時に情報が偏りやすいことがあります。
本人の視点だけでは把握しづらい点があるため、可能なら家族の同席や、日常で起きている具体例をメモして共有するなど、情報を補う工夫が役に立つことがあります。
どんなに周囲が振り回されて困っていても、本人に困り感がない場合、診断されないケースが多く(診断されても「軽め」と判断される)、家族や周囲の方(カサンドラ症候群の人)は本当にやりきれない思いとなります。
そのような事態を防ぐために、情報を補う工夫は大事です。
また、発達特性(コミュニケーションの特性)あるのかそうではないのか、というところから少し離れて、認知特性についても考慮することが大切です。
<関連ページ>認知特性について記載しています↓
気づくと「自分ばかり頑張っている関係」になってしまう背景
発達特性(コミュニケーションの特性)のある人は共感が難しい上、共感を表現することが難しい、または表現することに価値を見い出しにくいため、パートナーに対して冷たい言動や行動になりがちです。
プレゼントを渡しても、「こんなものはお金の無駄だ」と言った言動が自然に出てしまうのも、プレゼントそのものの価値云々ではなく、プレゼントを交換することが気持ちの交換であることと認識できないところにあります。
このような言動は、正しいか正しくないかで判断しようとすると、どちらでもありません。
正しいとも言いづらいし、正しくないとも言いづらいです。
その上、当然のように自然に発するので、言われたあなたが、「自分が悪い(おかしい)のかもしれない」と思うことがあっても不思議ではありません。
あなたが共依存やアダルトチルドレンのチェックリストにあるような特徴を持っていれば、自己肯定感が低いので、自分が悪いのかもしれないと思ってしまう土台ができており、
さらに発展すると、「自分しかこの人の相手をすることができない」「自分しかわかってあげられる人がいない」というところまで行き着いてしまいます。
いつしか、「なぜ自分がこんなにわかってあげようと努力しているのにあなたはわかってくれようとしないのか」という怒りや恨みに変わってしまいます。
怒りや恨みをぶつけてもそれが伝わらず、もどかしさを感じながらも、「自分しかこの人の相手をすることができない」「自分しかわかってあげられる人がいない」に逆戻りします。
また、「この人は離婚した後に一人でやっていけるだろうか」という同情も離れられない要因となることが多いです。
こうして共依存関係が成立し、お互いに不満を抱えながらも離れられない状況になります。
カサンドラ症候群の方に機能不全家族育ち(毒親育ち)が多いのも特徴です。
自分の気持ちを引っ込めたり、我慢したり、理不尽で不可解な発言や行動に必要以上に理解を示してしまったり、疑わずに真に受けてしまうことが原因です。
知識が増えると、別のつらさも出る:それでも“整理できる”ことの価値
発達特性(コミュニケーションの特性)やカサンドラ症候群という視点を知ることで、これまでの出来事の捉え方が変わり、新たな戸惑いやつらさを感じることがあります。
ここでお伝えしたいのは、相手に診断名を当てはめることではなく、「これまで何が起きていたのか」を整理するための一つの見方として理解することです。
実際の相談でも、この段階で「理解できた安心感」と「今までの記憶の見え方が変わるしんどさ」が同時に出てくる方は少なくありません。
知識がつくことで、過去の言動の意味が次のように違って感じられることがあります。
- 「あの時の言動は、私のことを思ってのものというより、単にルールやパターンとして出てきたものだったのかもしれない。理解して言っていたのではなく、結果としてそうなっていただけだったのかもしれない」
- 「気持ちの切り替えが早くて頼もしいと感じていた部分は、出来事を忘れやすい、あるいは共感や理解の仕方が違っていただけだったのかもしれない」
- 「いつも合わせてくれているように見えたのは優しさではなく、受動的な特性の現れだったのかもしれない」
- 「自分の意見をはっきり言えるのは自信からではなく、見えている範囲が世界のすべてになりやすく、見えていないものを想像することが難しい特性によるものだったのかもしれない」
- 「人前で堂々としているように見えたのも、自信というよりは、自分がどう見られているかを想像することの難しさが影響していたのかもしれない」
このように、同じ言動でも、真に自信や優しさから出ている場合と、結果として似た形になっているだけの場合では、そのプロセスが大きく異なる可能性に気づくことがあります。
相談の現場でも、「当時は優しさだと思っていた」「魅力だと思っていた」と語られる場面が、整理の過程でまったく別の意味に見えてくる瞬間は非常によくあります。
そして、その違いに気づけなかった背景には、自分の側に共依存やアダルトチルドレン的な特徴(意見を言いづらい、人の顔色を優先する、優しさの基準が曖昧になりやすいなど)が影響していると感じる方もいらっしゃいます。
その結果として、本来とは異なる意味で魅力的に見えていたのかもしれない、と整理されることもあります。
大村カウンセラー
このような再解釈の過程は決して楽なものではなく、納得と同時に喪失感や複雑な感情が生まれることもあります。
実際、理解が進んだ直後に一時的に気持ちが落ち込む方もいらっしゃいますが、これは関係の現実を直視し始めたサインでもあります。
ただ一方で、その理解が離婚や別居、関係の距離の取り方、あるいは再構築を考える際の判断材料になることもありますし、「相手を変えようとし続ける苦しさ」から「自分の守り方を考える」という視点へ移行するきっかけになることもあります。
実際の相談でも、「何も知らずに振り回されていた苦しさより、理解したことで生まれる苦しさの方がまだ受け止められる」と話される方は少なくありません。
この言葉は、関係の整理のプロセスの中で非常によく聞かれる感想の一つです。
ただし、この理解は相手の行動を正当化するためのものでも、あなたの我慢を勧めるものでもありません。
また、暴言・暴力・強い恐怖を伴う状況がある場合には、原因の理解よりも安全確保を優先する必要があります。
知識は一度読んだだけで腑に落ちるものではなく、実際の出来事を振り返りながら整理していくことで、少しずつ自分で気づける感覚が育っていきます。
相談の場でも、エピソードを一つひとつ確認しながら「今の出来事はこういう構造で起きていた可能性がありますね」と整理することで、初めて理解につながるケースは少なくありません。
こうした積み重ねによって、生活の中で違和感を感じたときに、「いま何が起きているのか」を自分の言葉で捉えられるようになっていきます。
そのため、日常で感じた小さな違和感や引っかかりも、無理に結論を出す必要はありませんが、整理の材料として扱っていくことには意味があります。
大切なのは診断の有無ではなく、「いま自分が何に困っているのか」を言語化していくことです。
「読んだときはわかるのに、現実になるとわからなくなる」というのはとても自然な反応です。日常のすれ違いがどんな形で起きやすいのかを、具体的な場面ごとに整理した記事もありますので、読んでみてください↓
よくある質問(FAQ)
Q1.自分が変われば、アスペルガー症候群のパートナーも変わりますか?
A.自分が変われば相手が変わるとは限りません。よく「自分が変われば相手も変わる」「夫婦は鏡」と言われますが、これらの考え方はアスペルガー症候群の人には当てはまらないことが多いです。特性として、相手の変化や意図を汲み取れず、「自分も行動を修正しよう」とはなりにくいためです。この言葉を真に受けてしまうと、相手が変わらない現実をすべて自分の努力不足と捉えてしまい、自分を責め続ける構造になりやすいので注意が必要です。ただし、自分の受け止め方や関わり方を変えることで、振り回される感覚や消耗感が軽減されることはあります。自分を変えるということは、相手を変えるためにするのではなく、「自分を守るため」と捉える方が現実的です。
Q2.「悪気はなかった」「そんなつもりはなかった」と言われたら、許さないといけませんか?
A.許さなければいけないわけではありません。その言葉は、相手の意図を説明しているだけで、あなたが受けた傷や不快感を帳消しにするものではないからです。関係性の中で問題になるのは「何を思って言ったか」よりも、「その言動によって何が起きたか」です。たとえば、心ない言葉を向けられて傷ついたと伝えたときに、「そんなつもりじゃなかった」と返されると、出来事そのものよりも、あなたの感情が無視されたように感じることがあります。そのやり取りが繰り返されると、「傷つく側が悪い」「感じた自分が間違っている」という構図が固定されやすくなります。許すかどうかは義務ではありません。今感じている違和感や距離を取りたい気持ちを、無理に打ち消す必要はないのです。
Q3.アスペルガー症候群とカサンドラ症候群の夫婦において、子どもにどんな影響がありますか?
A.夫にASDの特性があり、妻がカサンドラ状態に陥っている家庭では、夫婦間で行き場を失った感情が、無意識のうちに子どもへ向かってしまうことがあります。共感や感情の共有が得られない夫との関係で孤立し続けると、妻は「誰かにわかってほしい、受け止めてほしい」という欲求を抱えやすくなります。そのはけ口として、最も身近で反応を返してくれる存在である子どもに感情を向けてしまい、結果として毒親(毒母)的な関わり方になるケースがあります。その環境で育った子どもは、自分の感情を後回しにしながら母親を支える役割を担いやすくなり、アダルトチルドレン化してしまうことがあります。
Q4.ASD特性のあるパートナーと離婚するか、関係を修復するかの判断ポイントは何ですか?
A.ASD特性のあるパートナーに「自覚があるかどうか」、さらに「自覚しようという気持ちがあるかどうか」です。自分の言動や行動が相手を傷つけたり振り回してしまっている自覚がある場合、指摘された場合でも、反射的に逆ギレをしにくくなり、「自分がまたやらかしてしまったかも」という視点が生まれます。その結果、カサンドラ側のパートナーに感謝や謝罪の気持ちが生まれます。一方で、自覚がない場合、起きている問題はすべて「相手が悪い」「カサンドラ側の受け取り方がおかしい」という認識に固定され、感謝や謝罪の気持ちが育つ余地がありません。この状態では、関係を修復しようとするほど、カサンドラ側だけが消耗していきます。再構築が現実的かどうかは、相手が変わる可能性ではなく、「自覚を持って関係を見直そうとする姿勢があるか」を見極めることが重要です。自覚のない相手との関係は、努力や理解だけで改善するものではないからです。
Q5.カサンドラ症候群の専門家に相談するメリットは何ですか?
A.パートナーの言動や行動がASDの特性によるものなのかそうでないのかを整理し、自分を過度に責めずに状況を理解できるようになります。一人で考えると、「自分の伝え方が悪いのでは?」「自分が我慢できないのがおかしいのでは?」と原因をすべて自分に向けてしまいがちですが、専門家が入ることで、夫婦関係を客観的に捉え直すことができます。また、身近な人に相談すると「どの夫婦にもよくあること」「男なんてそんなもの」「あなたが大人になれば良い」とあしらわれてしまうこともありますが、専門家からはそのようなズレた助言や二次被害が起きにくくなります。何より、これまで言葉にできなかった違和感を整理し、「自分がおかしいわけではなかった」と理解できること自体が、回復の大きな一歩になります。
免責事項(必ずお読みください)
本記事は、特定の障害や診断の断定を目的としたものではなく、夫婦関係の困りごとを整理するための一般情報です。アスペルガー症候群(現在はASDと呼ばれることが多い)およびカサンドラ症候群に関する一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断や治療に代わるものではありません。記載している内容は、相談現場での経験や心理学的な考え方をもとにしたものであり、すべての方に当てはまるわけではありません。特性や困りごとの現れ方には個人差があります。本記事の内容を参考に何らかの行動を取る場合は、ご自身の判断と責任において行ってください。強い抑うつ、不安、不眠など心身の不調が続く場合は、精神科・心療内科など医療機関を含む専門家への相談もご検討ください。
参考文献
岡田 尊司(著)『カサンドラ症候群 身近な人がアスペルガーだったら』角川新書、2018年
宮尾益知(著)『発達障害と人間関係──カサンドラ症候群にならないために』講談社、2021年
Bentley,K.(著)『Alone Together: Making an Asperger Marriage Work』London and Philadelphia(原著)2008年







