「なんでわかってくれないの」「他の人には通じるのに」——そう感じたことはありませんか。
実は、夫婦喧嘩の原因は「性格の不一致」や「愛情の欠如」ではないことがほとんどです。10年・累計15,000回以上のカウンセリングの現場から、気づいたことがあります。
夫婦喧嘩の多くは「価値観の違い」ではなく、「言葉の定義のズレ」が原因です。同じ「優しさ」「愛」「幸せ」という言葉でも、育ってきた環境が違えば意味するものが根本的に異なります。「〇〇ってどういう意味?」と聞く習慣を持つだけで、多くのすれ違いは防げます。
【重要】本記事は、医学的な診断や治療を目的としたものではありません。あくまで夫婦関係の改善を目的とした情報提供です。医療的な判断が必要な場合は、必ず専門の医療機関にご相談ください。
「話がかみ合わない…」その原因は?夫婦喧嘩の本質とは
「なんで話がかみ合わないの?」
「他の人とは通じるのに!」
そんな経験はありませんか?
実は、夫婦喧嘩の多くは「言葉の定義のズレ」によって引き起こされています。
もっと言えば、言葉の定義が人によって違うことを認識していないことや、相手の言葉の意味を想像しようとしないことが原因となっているのです。
人はそれぞれ異なる環境で育ち、異なる経験をしているため、同じ言葉を使っていても意味するものが微妙に異なることがあります。
人それぞれ独自の意味がついているのです。
しかし、それに気付かずに会話をしていると、お互いに誤解し、すれ違いが生じてしまいます。
特に共依存体質の人は、一心同体感が強く、つい自分と相手は同じと思ってしまいがちですので注意が必要です。
親子よりも夫婦の方が「言葉の定義のズレ」が大きくなる理由
親子の場合、長い間一緒に暮らしているため、使う言葉の定義がある程度一致していることが多いです(ただし、親子の言語能力に差があったり、いずれかに発達特性がある場合にはこの限りではありません)
しかし、夫婦は元々まったくの他人同士です。
そのため、言葉の定義が一致していないことによる誤解が起こりやすく、小さなズレが大きな喧嘩につながる可能性があります。
ここで重要なのは「価値観の違い」ではなく、「言葉の定義の違い」であるという点です。
例えば、芸能人の離婚理由で「価値観の違い」というフレーズがよく使われますが、実際にはお互いの言葉の意味を確認し合っていなかったことが本当の原因であることも多いのです。
大村カウンセラー
どんな言葉も相手は自分とは違う意味で使っているという前提でいましょう。
「優しさ」の定義とは?夫婦喧嘩の典型例
よくある例として、妻が夫に「もっと優しくして欲しい」と言う場面を考えてみましょう。
この時、「優しさ」の意味が夫婦で一致していなかったらどうなるでしょうか?
「優しさ」と一言で言っても、人によって以下のように捉え方が異なります。
ここで問題なのは、「優しさ」の意味が夫婦で一致しているかどうかです。
- 「話を聞いて欲しい」
- 「家事を手伝って欲しい」
- 「抱きしめて欲しい」
etc
「察して欲しい」という気持ちもわかりますが、相手に伝わらなければ意味がありません。
そのため、「もっと優しくしてほしい」ではなく、「○○してくれると嬉しい」という具体的な伝え方を心がけましょう。
大村カウンセラー
他にも、夫婦カウンセリングなどで「大事にしてよ」「ちゃんとやってよ」のようなあいまいな言葉を使っているのをよく耳にしますが、自分が意図する意味で伝わっているとは限りません。お互いの言葉の意味のすり合わせを適宜行ってくださいね。
「察してくれて当然」という考えはNG
察してくれて当然、という前提で話をすると、すれ違いが生じやすくなります。
大事な考え方なので覚えておいて欲しいのですが、もし夫が自分の望む反応をしてくれたら、それは夫のファインプレーです。
伝わるはずのないことを汲み取ってくれたという点でファインプレーなのです。
決して「察してくれて当然だよね」という評価をしてはいけません。
ですから、逆に、夫が間違った対応をしたとしても責めるべきではありません。
なぜなら、言葉にしなければ伝わらないのが普通だからです。
夫の側も、「もっと優しくして欲しい」と言われた時に、「どういう意味?」と尋ねることが重要です。
そういう意味では、あいまいな表現によって喧嘩になった場合というのは、あいまいな表現で言った方も、それを言われて聞かなかった方も、どちらにも問題があるということになります。
夫婦どちらか一方だけが悪いということはないということです。
夫婦で喧嘩になりそうになったら、一呼吸おいて聞いてみてください。
「あなたの言っている○○ってどういう意味?」と。
(○○には「優しい」とか「愛」とか「幸せ」とか「寂しい」とか、気になる言葉、誤解を招きやすい抽象的な言葉を入れてください)
聞かれた方も、「なんでわからないの?」と怒らずに、丁寧に説明してあげてください。
大村カウンセラー
最初からあうんの呼吸はありません。結婚前にはそれがわかっていても、結婚した瞬間にわからなくなる人がいます。結婚したら突然テレパシーが使えるようになるわけではありませんからね。
誤解が命に関わることも
新型コロナウイルスの流行初期、「軽症」という言葉に多くの人が油断してしまいました。
- 医療従事者の「軽症」→命に別状はないが、高熱や肺炎などの症状がある
- 一般の人の「軽症」→風邪程度の軽い症状
同じ言葉でも使う立場によって意味が異なるため、誤解が生じました。
この「言葉の定義のズレ」が、感染拡大を助長した面があったと思います。
医療従事者が使う「軽症」の意味と、一般の人たちが使う「軽症」の意味に、かなり開きがあった、ということです。
もしこの開きがなければ、もう少し感染拡大を抑えられたように思います。
同じ言葉でも、立場によって言葉の意味(定義)が変わる、ということがよくわかる例だと思います。
カサンドラ症候群になりやすい人への注意喚起
「いくら言葉の定義に気を付けてと言われても…」「そうは言ってもね…」と思う方もいると思います。
相手が発達特性(ASDなど)を持っている場合、いくら自分が気を付けていても難しいことがあります。
こんなことが続いていませんか?
- 言葉の定義のズレによって会話が成立していないのに、相手はそれを問題だと思っていない
- 言葉の定義のズレを何度説明しても、相手はそれを理解できない
- 言葉の定義のズレを何度説明しても、相手はそれを忘れてしまう
etc
こうした状況があまりにも続くようなら、おそらくあなたが悪いわけではない可能性があります。
「自分の伝え方が悪いのだろうか?」と思ってしまい過ぎる人は要注意です。
それが慢性化すると、カサンドラ症候群に陥る可能性があります。
同時に、「相手にも問題があるのではないか」という思いも持ってくださいね。
ASD傾向のあるパートナーとのすれ違いについては、こちらで詳しく解説しています↓
この記事のまとめ:言葉の定義のズレを防ぐには?
言葉の定義のズレは、悪意がなくても起きます。この記事でお伝えしたことを整理します。
- 夫婦喧嘩の多くは「価値観の違い」ではなく「言葉の定義のズレ」が原因
- 人はそれぞれ異なる環境で育っているため、同じ言葉でも意味するものが異なる
- 夫婦は元々他人同士のため、親子より言葉の定義のズレが大きくなりやすい
- 「優しさ」「愛情」などの抽象的な言葉は、具体的な行動に置き換えて伝えることが重要
- 「察してくれて当然」ではなく、相手が汲み取ってくれたらファインプレーと捉える
- 何度説明しても伝わらない・忘れてしまうという状況が続く場合、ASDなどの発達特性が関係している可能性がある
すれ違いが起きたとき、どちらかだけが悪いわけではありません。「定義を確認し合う」という習慣が、夫婦の会話を変えます。
大村カウンセラー
以上のような点を、夫婦カウンセリングで見直していきます。すれ違いが起きた時の具体的な会話を覚えておいていただいて、ぜひ教えてください。どこですれ違いが起きたのかの検証をします。あとは検証結果を今後に活かすだけです。
【この記事を読み終えたあなたへ】
「何度説明しても伝わらない」という状況が続いているなら、言葉の定義の問題だけではない可能性があります。何がすれ違いを生んでいるか、一緒に整理してみませんか。夫婦のコミュニケーションのパターンを根本から見直したい方へ。
よくある質問(FAQ)
Q1. 言葉の定義のズレは、どうすれば確認できますか?
A. 抽象的な言葉(「優しい」「大事にする」「愛している」など)が出てきたとき、「あなたの言う〇〇って、具体的にはどういうこと?」と聞く習慣をつけることが最も効果的です。責めるのではなく、純粋に知りたいという姿勢で聞くことが大切です。
Q2. 何度定義を確認しても、相手が覚えてくれません。
A. それはASDなどの発達特性が関係している可能性があります。この場合は言葉の定義の確認を繰り返すよりも、専門家を交えた対話や、別のアプローチが必要になります。
Q3. 「察してくれて当然」と思ってしまうのをやめられません。
A. 共依存傾向のある方に多いパターンです。「察してほしい」という気持ちの背景には、自分の気持ちを直接伝えることへの恐れや、幼少期の関係性が影響していることがあります。
Q4. 「価値観の違い」と「言葉の定義のズレ」はどう違うのですか?
A. 価値観の違いは根本的な考え方や優先順位の差であり、簡単には変えられません。一方、言葉の定義のズレは「同じ言葉を違う意味で使っている」だけの話なので、確認し合うことで解消できます。夫婦喧嘩の多くは価値観ではなく定義のズレが原因であるため、まず定義の確認から始めることをお勧めします。
Q5. 相手に「どういう意味?」と聞くと、「そんなことも分からないの?」と怒られます。
A. それ自体がコミュニケーションの問題です。確認しようとする側に非があるわけではありません。相手が確認を拒む場合、言葉の定義のズレを解消する以前に、対話の土台そのものが崩れている可能性があります。その場合は専門家への相談を検討してください。
免責事項(必ずお読みください)
本記事は、特定の診断や疾患の確定を目的としたものではありません。相談現場で多く見られる「関係性の傾向」や「心理的な構造」を、一般的な情報として整理しています。内容はすべての人や関係に当てはまるものではありません。心身の不調が強い場合や日常生活に支障がある場合は、医療機関・専門機関への相談もご検討ください。なお、本記事の情報を参考に行動される際は、ご自身の判断と責任でお願いいたします。私は共依存・夫婦関係の整理を専門とするカウンセラーとしての相談経験をもとに執筆していますが、効果や結果を保証するものではありません。
参考文献
ゴードン, T.(著)近藤千恵(訳)『親業——子どもの考える力をのばす親子関係のつくり方』大和書房、2002年
ゴットマン, J.(著)松浦秀明(訳)『結婚生活を成功させる七つの原則』第三文明社、2007年
宮尾益知(著)『アスペルガーの男性が女性パートナーに暴力をふるうとき』スペクトラム出版社、2015年
信田さよ子(著)『共依存——苦しいけれど、離れられない〔新装版〕』朝日新聞出版、2023年
厚生労働省「発達障害の理解のために」(最終閲覧日:2026年5月2日)







