「投影」の理解が、あなたを自己嫌悪から解放する
目次
相手の言葉に傷つくあなたへ-知っておきたい心の仕組み-
「最近、夫(妻)の言葉に過剰に反応し、まるで自分の欠点を指摘されているように感じてしまう…」
「相手の些細な言動が、以前よりもずっと心に引っかかり、自己嫌悪に陥りやすい…」
「もしかして、相手の言葉にこんなにも苦しんでいるのは、私自身の心に原因があるのだろうか…」
もしあなたがそう感じているなら、それは夫婦関係において、相手と自分の境界線が曖昧になっているサインかもしれません。
決してあなただけではありません。
多くの夫婦が、時として相手の言葉に過剰に反応し、自分自身を見失いそうになることがあります。
そんな心の混乱の裏には、私たちが無意識のうちに陥ってしまう心の働き、「投影(投射)」が関係していることがあります。
夫婦関係に潜む「投影」とは?
「投影」とは、心理学、精神医学の用語で、無意識の作用による自我の防衛機制の一つです。
「投射」ともいいます。
言い換えると、自分の欲求や感情等を自分自身で認められない、あるいは望ましくない、と判断した場合に、それらの欲求や感情等が自分のものではなく他人にあるかのように感じとる作用(心の働き)のことです。
「そんなことあるの?」と思うかもしれませんが、私たちは無意識のうちに自分を守ろうとして、この「投影」を使ってしまうことがあります。
自分の認めたくない気落ちや受け入れがたい感情を、あたかも相手のものだとすることで、心の負担を軽くしようとする、一種の無意識の責任転嫁のようなものと言えるでしょう。
たとえば、
・自分が相手に不満を感じている時、「相手も自分に不満を感じているに違いない」と思い込む。
・自分の劣等感を隠すために、相手を批判し、「相手の方が劣っている」と思い込もうとする。
・過去に自分がパートナーを裏切った経験から、相手も同じように自分を裏切るのではないかと過剰に不安になる。
これらの「投影」は、夫婦間のコミュニケーションを阻害し、誤解や不信感を生み出す原因となります。
なぜ「投影」を知ると相手の言葉に冷静になれるのか?
この「投影」の存在を知っておくと、相手の言動に過剰に反応したり、深く傷ついたりすることを防ぐことができます。
特に、相手から心ない言葉を言われた時、「もしかしたら、これは相手の『投影』なのかもしれない」と一歩引いて冷静に考えることができるようになるのです。
何か非難された時に冷静に聞くことができます。
たとえば、
・「人のせいにするな!」と言われた時、「もしかしたら、相手の方が自分の責任を認めたくないのかもしれない」と考える。
・「嘘をつくな!」と責められた時、「もしかしたら、相手の方が何か隠していることがあるのかもしれない」と推測する。
・「話をすり替えるな!」と指摘された時、「もしかしたら、相手の方が論点を変えようとしているのかもしれない」と捉える。
このように、「もしかして、本当は相手の方がそう感じているのかもしれない」と一歩引いて考えることができれば、感情的に反論するのではなく、「どうしてそう思うの?」と冷静に尋ねることができるでしょう。
相手の言葉を真に受け過ぎず、「これは自分の問題ではなく、相手の問題かもしれない」と冷静に判断できるようになります。
「投影」に気づくことは、こうして相手の問題と自分の問題を切り離し、必要以上に自分を責めることを防ぐことにも繋がるのです。
特に、アスペルガー症候群・自己愛性パーソナリティ障害などの人(毒親含む)は、「(その私への発言は)あなたのことだよね」と思うような発言をしてくることが多々あると思います。
そんな時、ぜひこの「投影」を疑ってみてください。
ご相談事例から紐解く
相談事例①:「世間体が気になるのは誰?」
<修復を望むAさんからのご相談>
離婚を考えているパートナーから、「なんでそんなに離婚したくないの?世間体が気になるの?」と言われて傷ついた、というご相談です。
この方は決して世間体を気にしていたわけではなく、純粋に夫婦関係を修復したい、という気持ちを持っていただけでした。
しかし相手は、まるでそれが“見栄のため”かのように決めつけてきたのです。
このケースでは、離婚を切り出したパートナー自身が、世間体への不安や、関係が終わることへの恐れを抱えている可能性があります。
しかし、その気持ちを認めるのが辛いため、修復を望むAさんに「世間体を気にしている」という理由を押し付けていると考えられるでしょう。
これは、自身の不安を相手に投影している典型的な例です。
この結果、相手にその感情を投影してしまったということになります。
このようなことに気付けると、「離婚したくない、とか、世間体を気にしている、というのは私の本心ではない。相手がそう思っていて、それを自分のせいにしてきているだけに違いない」と捉えることができ、無駄に傷つかずにすみます。
相談事例②:「変われない」のはどちらか
<自己変革の努力をしているBさんからのご相談>
「パートナーから『あなたは本当に変われないよね?変わろうとしないよね?』と繰り返し責められ、落ち込んでいた方からのご相談。
詳しくお話を伺っていくと、実はそのパートナー自身が「変わりたいけれど変われない」状態に長く苦しんでいたことがわかりました。
自分の変われなさ、もどかしさを認めることができないために、「あなたが変わらないから」とBさんに投影し、責任を押しつけてしまっていたのです。
変わろうとしたけど変われなかったその時の無力感や焦燥感を、努力しているBさんに投影することで、過去の感情を再体験しているのかもしれません。
こうした投影は、自覚のないまま繰り返され、相手に深い無力感を与えます。
しかし投影の仕組みを理解していれば、「これはあの人の痛みなのかもしれない」と受け止め方を変えることができます。
相談事例③:「あなたは本音を言わない」その言葉の裏に
<同じく自己変革の努力をしているCさんからのご相談>
「あなたって本音を言わないよね。何を考えているかわからない」と言われ、途方に暮れていた方からのご相談。
ですが、その方はむしろ丁寧に自分の気持ちを言葉にしようとしていた方でした。
では、なぜそんな言葉をかけられたのか?
実はそのパートナー自身が「本音を言うのが怖い」「自分の気持ちを見せたくない」と感じていたのです。
その感情がCさんに投影され、「あなたは本音を言ってくれない」という言葉として表れたのです。
本音を言えない自分を守るために、「あなたが閉じている」と言って責めるのです。
まさに投影です。
この仕組みに気づくだけで、自己否定を減らすことができます。
「投影」に気づけると、夫婦関係は変わる
投影は誰にでも起きる、ごく自然な心の働きです。
大切なのは、その存在に気付くことができるかどうかです。
「もしかしたら、今相手が言っていることは、自分の中の課題を私に映しているだけかもしれない」
「今、私は本当にこの人の言葉を自分のこととして受け取るべきだろうか?」
そうやって、ひと呼吸おいて見つめ直すだけで心のダメージはずいぶん軽くなります。
さらに、相手に対しても「この人も今、何かに苦しんでいるのかもしれない」と思えれば、対話の糸口も見えてきます。
投影に巻き込まれないための3つのヒント
・相手の言葉を「そのまま受け取らない」習慣をつける
→ 特に攻撃的な言葉ほど、「これは誰の感情だろう?」と問い直してください
・自分の感情を丁寧に見つめる時間をもつ
→ 自分が相手に何かを言いたくなった時も、「これって本当は、自分の中にある不安かも?」と立ち止まってみてください
・「相手の問題かもしれない」という視点を忘れない
→ 特に共依存体質・被害者体質の人は、すべてを自分の責任にしない意識を常に持ちましょう
自分と相手の境界線がすぐに曖昧になってしまいがちな人は要注意です。
投影というフィルターを一枚外してみるだけで、相手の言葉の奥にある「本当の気持ち」や「痛み」に気づけることがあります。
その一歩が、これまでの関係性に小さな変化を生み出すかもしれません。
この記事を書いた人 | |
共依存・夫婦問題カウンセラー大村祐輔 9年間で約800人、60分×約13,000回のカウンセリング実績から得た知識や経験を還元できるよう日々尽力しています。 大村の理念は「夫婦問題を解決して終わりじゃない」「離婚して終わりじゃない」「根本からの自己改革」です。 共依存で悩むあなたに「とことん付き合う」の精神で活動しています。 日本学術会議協力学術研究団体 メンタルケア学術学会認定 メンタルケア心理士 資格番号E1607030023 一般社団法人 ハッピーライフカウンセリング協会認定 離婚カウンセラー 会員番号200017 →詳しいプロフィールはこちら |